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擬似宗教のススメ

 宗教というものは超越的な人格者に対する信仰を核とするものである。典型的には神に対して信仰心を抱くという形態をとる。だが、無宗教であっても、人間は超越的なものへとまなざすことができるのではないだろうか。
 日々の雑事に追われていると、世界が神秘に満ちていることに気付かない。だが、ふと足を止め、自然の美しさを見やったりする。すると自然というものはたとえようもなく美しく神秘的に見えることがある。そのとき、人は超越的なものへとまなざしているのである。
 自然だけではなく、例えば自分が生きているこの社会というもの、これもよくよくとらえようとすると謎に満ちた不可思議な動きをしていることが分かる。社会というものもどこか神秘的で、我々の理解を超えていくものである。社会の内奥にも何か超越的なものが隠れているかのようだ。
 それだけではない。私たち個人の人生というもの。これもまた不可思議で、足を止めてよくよく眺めてみると謎に満ちた神秘的なものである。自分が生きているというただそれだけのことも神秘に満ちているし、自分の人格の成り立ちもまた神秘に満ちている。そこには我々を超越する何ものかが潜んでいるかのようだ。
 このように、自己であったり社会であったり自然であったり、とにかく世界というものは謎に満ちた神秘的なものであり、そこに何かしら超越的なものを感じとることができる。特に何らかの神を信仰していなくても、人はときおり世界の神秘の前に超越者の臨在を感じとって、そこへまなざすことができる。これは宗教ではないかもしれない。だが、世界の謎を鋭敏に感じ取っているとき、世界はたとえようもなく美しいし、我々はその謎に対して戦いを挑んだり理解を深めようとしたりする。世界の美しい謎を鋭敏に感じ取り、そこへと戦いを挑んでいくということ。そのような生き方は楽しくないだろうか。