社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

川端康雄『ジョージ・オーウェル』(岩波新書)

 

  『動物農場』や『一九八四年』で、個人の自由の制限や監視社会化に警鐘を鳴らすようなディストピア小説を書いたジョージ・オーウェルの生涯と作品について書かれている。初めは自らの従軍体験などを書いていたオーウェルだが、BBC勤務時代にマスメディアの影響力の強さを実感し、また検閲を受けることで表現の自由をめぐる考察に導かれた。『動物農場』は明確なソヴィエト批判であり、金持ちがプロレタリアートを搾取する状況を動物でたとえている。ソヴィエト神話の真相の暴露を意図している。『一九八四年』もまたスターリニズム下での自由の制限や監視について書いている。

 情報技術の進歩により、例えばビッグデータなどにより我々の行動の監視は容易になってきている。また、ポスト真実の時代で報道の在り方が問い直されている。このような時代でオーウェルが再び注目を浴びるのは必然的なことだと思う。現代社会はもはやディストピア化が進行してしまっているのかもしれない。そんなことを思わせる評伝だった。

神里達博『リスクの正体』(岩波新書)

 

  本書は科学史家である著者がリスク社会をめぐって書いた朝日新聞連載をまとめたものであり、一つのテーマについて新書で4ページ分となっている。感染症、自然災害、地球環境、科学技術、ネットワーク社会、市民生活など、テーマは多岐にわたる。それぞれのテーマについて、豊富な学識に裏付けられた鋭い知見が述べられており、断片的な知識やアイディアは手に入る。だがいかんせん新聞のコラムなので、リスクについての体系的で学問的な知識までは手に入らない。

 隙間時間の読書にはちょうどいいタイプの本だが、体系だったきちんとした知識を手に入れるのには向かない本である。だが、様々なアイディアや小ネタに満ちており、読み終えれば話のネタは増えているに違いない。最近のコロナウィルスについても、ウィルスは宿主を殺すようでは共倒れで、宿主と共生するように進化するであろうなどと科学的知見が述べられており、話のネタになる。隙間時間をつぶすのにぴったりな本だ。

藤田久一『戦争犯罪とは何か』(岩波新書)

 

戦争犯罪とは何か (岩波新書)

戦争犯罪とは何か (岩波新書)

  • 作者:藤田 久一
  • 発売日: 1995/03/20
  • メディア: 新書
 

  戦争犯罪に関する国際法の入門書。第一次大戦前の国際社会では国家の行う国際戦争は一般に合法とされ、これを無差別戦争観と呼ぶ。無差別戦争観の下では、戦争犯罪は捕虜の虐待などに限られ、交戦国が戦争中に自国の裁判所で裁いていた。二度の大戦を経て戦争が違法化されると、戦争犯罪は違法な戦争に訴えたことや一般住民に対する侵害行為を含むようになる。国際社会では戦争犯罪を国際犯罪として裁くようになり、国際刑事裁判所の設立が待たれている。

 本書は国際刑事裁判所が設立される前に書かれたものであり、その点についていささか古いものではあるが、無差別戦争観から戦争を原則違法とするまでの変遷、また平和に対する罪と人道に対する罪についてなど学ぶ点は多い。ニュルンベルク裁判や東京裁判、旧ユーゴの裁判などにも触れていて、国際裁判の試みの進展が見て取れる。これからの時代は低強度紛争やテロの時代であるから、それに応じた国際法の進展が待たれる。

幸せに生活するために

 幸せに活き活きと生活するためには、ワークライフバランスが不可欠です。仕事でぐったりとしてあと何もやる気が起きないようでは人生楽しくありませんよね。家庭生活や趣味の活動、要するにプライベートな領域を充実させるのが幸せの鍵であり、幸せな労働者はより生産性の高い仕事をします。

 あなたの職場にもいませんか? 仕事が嫌いだとかやりたくないとかばかり言っている人。残業ばかりして明らかに効率の悪い労働をし、ストレスで周りに当たり散らす人。こういう人たちは明らかに人生に失敗しています。彼らは幸せに生活していないのです。

 まず、仕事にやりがいを見出すということ。その仕事がどういう社会的な意義を持っているかを理解し、その仕事の楽しさに気づくということ。どんな仕事にも楽しさはあるというポジティブな気持ちを持つことが大事です。

 次にオーバーワークを避けること。オーバーワークは心身に悪影響を及ぼし、それは周りにも悪影響を及ぼします。仕事を余裕をもって片付けられないのだったら事務補助の人や職場で手の空いている人に手伝ってもらいましょう。残業はタバコのように百害あって一利なしです。なるべく残業しないように工夫すること。そのために自らが健康で幸せで効率よく仕事ができることが必要条件なのです。

 そしてプライベートを充実させるために趣味を持つことが大切です。そんなに高尚な趣味である必要は全くなくて、友達と旅行に行くとか温泉に行くとか本を読むとかそのレベルでいいのです。趣味の活動を通してリフレッシュを図り、ストレスが解消できることが大事です。

 自分の人生くらい幸せに送りたいですよね。不満ばかりをこぼす人生よりも、自ら工夫して人生を楽しいものとし、活き活きと生活していく人生の方がいいに決まっています。

ハーバード・ビジネス・レビュー『レジリエンス』(ダイヤモンド社)

 

  自分を守り、立て直す能力である「レジリエンス」。本書は、様々な観点からレジリエンスを強化する処方箋を提示してくれる。レジリエンスを強化するためには、

(1)自らの弱さを認めさらけ出し、それを周囲に補ってもらうこと

(2)「人生には何らかの意味がある」という強い価値観に基づく確固たる信念を持つこと

(3)マインドフルネスにより脳の再起回路を鍛えること

(4)ポジティブな視点を持ち続け、定期的に感謝の念を表すこと

(5)ユーモアのセンス

(6)休養など回復するための時間

などが役に立つ。

 本書は、様々な執筆者たちがそれぞれに微妙に異なったレジリエンスの定義を持ち寄り、そのレジリエンスを強化するための処方箋を提示している。レジリエンスとは思ったよりも多義的な概念であり、それを強化する方法も多岐にわたる。巻頭の岡田氏の論考がおそらくもっともすぐれており、レジリエンスとは弱さと関係性の中に宿るという議論は極めて説得的であった。