社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

水田洋『「知の商人」たちのヨーロッパ近代史』(講談社学術文庫)

 

 グーテンベルクによる活版印刷技術の発明は、知識や文学を大衆に流布する技術の発明であり、その際知識を本の形で売る出版業者、「知の商人」たちを大量に生み出した。本書はそうした「知の商人」たちと知を売る学者や文化人などの近代史だ。「知の商人」は、一面では知識を大衆に流布するインフラを提供する者だが、他面では利潤を追求するために知識を利用している者でもある。

 本書は何か特定のテーゼを提示するものではなく、博覧強記の著者が自らの知識を連想で縦横無尽に結び付けていくその飛躍を楽しむ作品だと思う。これは学術書というよりは作品なのであり、読者は著者の「芸」を楽しむのである。著者は本書を書くにあたって非常に縦横無尽・自由自在に筆を運んでいる。この遊びの感覚こそが読む者に楽しみを与える。知識は楽しいのである。しかも知識がこのように飛躍を生みながら結合されていくのを見るのは楽しい。エッセイでも学術書でもない新たなジャンルの本を読んだ感じがする。

ウォーキングアプリについて

 中年になってメタボ気味になって生活習慣病が心配。それでも食事量を減らすこともできないし運動もおっくう。確かに私もそうだった。筋トレやウォーキングも本格的に取り組むことができず、気づけば中年太りで体重が89kgに。私は身長が183cmあるから太っていることはそんなに目立たないが、内臓脂肪は蓄積され脂肪肝の診断がなされ、このままだと糖尿病へと一直線。いったいどうしたら体重を減らせるのか。

 そんなときに堰を切ったように配信されだしたのがウォーキングアプリである。私はこの12月にピクミンブルームをダウンロードして、今ではそのヘビーユーザーだ。ピクミンブルームとは、ナイアンティック社が開発したアプリで、歩くことによってピクミンを育て、ピクミンと友好度を増すことでレアなピクミンをゲットしたりできるアプリである。このピクミンブルームをインストールしてから早1カ月半。私は4kgのダイエットに成功した。

 ウォーキングアプリの特徴は、歩くことに対して楽しい報酬が与えられる点である。ピクミンブルームの場合、歩くことによりピクミンをゲットできる。そしてピクミンは土地と連携していて、違う土地に行けば違う土地のピクミンがゲットできる。そして歩いた実績に応じてバッジがもらえたりする。

 だが、ピクミンブルームは歩いたことが金銭などに還元されることはない。それに対して、歩くことにより金銭や商品などの報酬が与えられるアプリが登場している。私が使っているものとしては、まずはマイルズ。これは歩くことに限らず移動することについてマイルが付与され、溜まったマイルで特典をゲットできるというものだ。私は今までこのアプリでファミマのコーヒーを無料でゲットしたり、コカ・コーラ社の飲料を一本無料でゲットしたりしている。

 そして、歩くこともそうだが、それ以上に環境意識を高めることによってポンタポイントがゲットできるのがグリーンポンタアクションである。このアプリは歩くことや環境に関する記事を読んだりすることでポンタポイントがたまるアプリである。実際に金銭に類似する報酬がもらえるのが魅力的だ。

 また、歩くことによってスタンプがたまって、一定程度ポイントをためれば自販機で無料で一本飲料をゲットできるのがコークオンである。これは自販機でコカ・コーラ社の飲料を買うごとにスタンプがゲットできるのがメインのアプリだが、累計の歩数や一週間毎日5000歩歩くことなどによってもスタンプがたまる。

 ウォーキングアプリの特徴は、歩くことに楽しい報酬、あるいは実利的な報酬が結びつくことで、歩くことへのインセンティブを高め、それが我々のダイエットの成功につながる点である。肥満で困っている方々、ウォーキングアプリはあなたの救世主になるかもしれない。

津止正敏『男が介護する』(中公新書)

 

 男性介護者の実態について書かれた本。介護する男性を「ケアメン」などと呼んだりして珍しいものだと思われがちだが、実際は介護している人口の三分の一は男性である。男性介護者は、他人とコミュニケーションをとるのが苦手だったり世間体を気にしたりプライドが高かったりでどうしても介護の問題を一人で抱え込みがちだ。だから著者などは介護する男性のネットワークを作り、そこでざっくばらんにお互いの苦労を話してもらったりしている。また、男性介護者の場合は介護と仕事の両立が大きな課題となっており、介護離職が後を絶たない。政府が介護離職者を減らす方針を打ち出していることから、具体的な指針が待たれる。

 本書は、実際に男性介護者を支持するネットワークを主宰している著者による男性介護者の実態や課題について書かれた本だ。主に認知症の母や妻を介護する男性が多いようだ。男性介護者という社会問題が生じていたことを私は本書で学んだ。確かに今まで知っているようで知らなかった男性介護者の存在、その実態。もはや介護を女性がやる時代は終わっている。男性も当たり前に介護する時代だ。著者たちの活動が男性介護者たちの少しでもの救いになることを祈っている。

南相馬で6年働いて感じたこと

 私は福島市で2年間働いたのち南相馬に赴任してそこで6年間業務に従事した。おそらく今回の異動でこの南相馬の地を離れると思うので、こちらの地で感じたことをまとめておく。

 南相馬というと福島第一原発近くの都市であり、相双地方の中心都市であり、東日本大震災および福島原発事故からの復興にいそしんでいる土地である。災害と事故については多くのことが語られていて私がさらに付け足すことなどあまりないと思うが、私がこの地で実際に業務に携わってみて、やはり光と闇の両方が見えてきた。

 闇の部分としてはやはり災害と事故の爪痕である。用地取得などに従事していた時、地権者の家に行ってみると地権者から災害当時のことを延々と聞かされることがよくあった。災害当時の写真を見せていただくこともあった。やはり災害と事故は大きな衝撃であり、被災者は心に傷を抱えており、それについて語りたいし傾聴してもらいたいのである。被災者たちの心のケアは継続的に続けていかなければならないだろう。

 また、課税業務などに従事していた時は、納税者の方からクレームをいただいたことが何度かあった。自分たちは災害と事故で避難を余儀なくされているのに税金を取るのか、軽減措置はないのか、そういう声を聴くことがあった。被災者の方々の被害感情はやはり大きなものがあり、容易に拭い去れるものではないなと思った。故郷を奪われた人たちの無念さにいやおうもなく直面させられた。

 一方で、光の部分もたくさん見てきた。自分が用地取得したところに堤防が完成したりすると感慨極まりないし、法務局で所有権移転登記の状況などを確認すると、こちらの地で経済活動が活発に行われていることが実感された。行政主導のインフラ整備はそれなりに順調に進んでいき、一方で一般の方々の日々の暮らしも絶えることなく活況を呈している。そういう復興への動きを肌で感じるのは何よりの喜びだった。

 南相馬での仕事は現場の仕事で業務量も多く、正直大変ではあったがとてもやりがいがあった。何よりも被災地の人々の日々の暮らしの役に立ち、災害からの復興に微力ながらも貢献できているという喜びがあった。被災者たちの心の傷は決して癒えることはない。それでも被災者たちはそれぞれの生活を精力的に営んでいる。この光と闇の両方を胸に刻み、私は別の土地へと旅立ちたい。

樹村みのり『彼らの犯罪』(岩波現代文庫)

 

 本書は漫画という形式をとりながらも社会的な事件や問題を日常的な視点から多角的に洞察している。「女子高生コンクリート詰め殺人事件」に材をとった表題作から、宗教による洗脳の問題や、家庭内暴力をふるう息子を殺す事件、それぞれについて、テンポよくわかりやすく、それでありながら深い戦慄を感じさせながら描いていく。末尾に置かれた放射能汚染に関するディストピア短編も戦慄を呼ぶ。

 社会的な問題は漫画にはなじまないと思われがちだ。なぜなら漫画は基本的に読み流すもの。娯楽を提供するもので読者に深い思考を提供するものではない。だが、樹村はこの漫画という媒体を非常に上手に使っている。漫画独特のテンポの良さと親しみやすさ、わかりやすさを巧みに利用することで、読者をするすると社会問題の深淵へと連れ込んでいく。90年代にすでにこのような作品が出ていたことを私は知らなかった。本作は芸術やエンターテインメントと社会とのかかわりについて大きな問題提起をしているように思う。