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審級の利益

 上訴制度というものは、原審の不当・違法による当事者の不利益を救う制度だとされる。だが、一審も控訴審も上告審も、同じように誤りうるのではないだろうか。一審よりも控訴審・上告審のほうがより正しいという保証はどこにあるのだろうか。

 控訴審だって事実認定や法的評価において一審と同様に誤りうるのではないか。ただ、控訴審の方が判断の元になる裁判資料が多いという事実はあって、それが判断の相対的な正しさを蓋然的には基礎付けるかもしれない。だが、資料が多いことが却って事案を複雑にし、余計に誤った裁判を導くかもしれない。そのような誤りがあっても大丈夫なように、不利益変更禁止の原則があるのだろうが、これは控訴人にとって不利益にならないだけであって、被控訴人は誤った裁判によって不利益をこうむる可能性がある。

 確かに、原審の手続の違法など明らかにその違法性が感得され是正されうるものは上訴によって是正するのが妥当である。だが、事実認定や法的評価については、上訴審も原審と同様に誤りうるのではなかろうか。上級裁判所による法解釈の統一の利益などということも言われるが、統一された見解が正しいという保証は特にない。とすると、審級の利益というものは、実体的な正義の次元における不当性や違法性の是正により生じるのではなく、主に手続的な違法の是正により生じるように思えてくる。もしくは、当事者になるべく多くのことを言いたいだけ言わせるという手続保障的な利益。