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社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

伊東光晴『ケインズ』(岩波新書)

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)

ケインズ―“新しい経済学”の誕生 (岩波新書)

 ケインズは、雇用・利子・貨幣について、それまでの経済学を包含するような一般理論を築くことにより、資本主義の新しい段階を作り出し、その理論は不況対策など現実的にも役に立つものであった。彼の理論は1920年代のイギリス社会に根差したものであるが、それは資本主義全体へと適用されうる柔軟性を持っていた。

 まず労働市場について。伝統的な理論は、一人の人間の労働時間を長くしたり短くしたりすることによって完全雇用が実現されるとした。それに対してケインズは、必要な労働時間の変化によっても一人あたりの労働時間は変わらず、それゆえに必要な労働時間が減ることによって非自発的失業が生じると論じた。

 次に投資・貯蓄・利子率について。伝統的な理論は、社会全体の貯蓄の量を利子率のみによって決まるとしていた。それに対してケインズは、貯蓄は所得と利子率の両方に依存すると論じた。その根拠となったのが乗数理論である。乗数理論とは、景気をよくするためには投資を増やし、景気が過熱したときは投資を減らすことにより、所得の連鎖的な増加を介して景気を安定させる理論である。投資と所得は密接に関連し、投資は貯蓄にひとしい。

 最後に貨幣について。伝統的な理論は、貨幣の役割を交換の仲立ちとしか考えなかった。それに対してケインズは、貨幣はそれが貨幣のままとして富を持つ手段としての役割も果たすことに注目した。それが流動性選好利子論である。利子率の上下によって、投資家は、富を貨幣でもっているか投資するかを流動的に決定する。

 以上がケインズの一般理論のあらましである。資本主義の実態に即し、社会問題の現実に即応する形で実践的な意義を持ち、かつ理論的にも精緻でより一般的であり、ケインズが経済学に果たした役割は非常に大きい。今でも経済学の教科書を読むと、ケインズ理論が当たり前のように教えられる。本書は、経済学の教科書のバックグラウンドを知るには格好の本である。