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森岡孝二『雇用身分社会』(岩波新書)

 

雇用身分社会 (岩波新書)

雇用身分社会 (岩波新書)

  • 作者:森岡 孝二
  • 発売日: 2015/10/21
  • メディア: 新書
 

  非正規雇用によるワーキングプアの問題はつとに指摘されてきた。『蟹工船』がベストセラーになったりする背景には、労働者の人権が十分保障されていない現代への不満がある。だが、問題は労働者の人権だけではない。もはや社会構造自体が時代に逆行していて、新たな身分社会が出来上がっている。

 森岡孝二『雇用身分社会』によると、現代においては労働者の間に「身分」の違いが生じている。身分とは賃金やその他の労働条件によってなる職業的地位のことであり、①正社員、②契約社員派遣労働者、③パート・アルバイト等という三層に分かれている。正社員は賃金や労働条件が比較的恵まれている。契約社員派遣社員はそれなりの賃金が保障されているものの、雇用の調整弁としていつ解雇されるかわからない。パートやアルバイトに至っては賃金も低いしその他労働条件も悪い。また景気が悪ければ真っ先に首を切られる。このような身分社会は、新自由主義的な規制緩和によって生じた。労働者の派遣はもともと禁止されていたが経営側の都合により限定的に許容され、その範囲が拡大された。

 現代は格差社会だといわれ、また階級社会だともいわれる。単に格差があるだけではなく、それが世代間に受け継がれていくのである。だが、格差や階級という概念ではたりず、もはや現代日本には「身分」が生じている。これは戦後の平等主義に反するものであり、地主制度の時代や『女工哀史』の時代に逆行するものである。確かに自由と民主主義は両立しないかもしれないが、だからこそ規制によって経営者の自由を制限する必要があるのだ。最低賃金を大幅に引き上げ、賃金格差をなくし、労働者派遣法の規制を強め、残業時間の上限を設定することで誰もが働きやすいようにし、雇用・労働にもっと政府が介入する。時代の逆行を防ぐためには政府の危機意識に基づく規制強化が求められる。