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久米郁男他『政治学』(有斐閣)

政治学 (New Liberal Arts Selection)

政治学 (New Liberal Arts Selection)

 本書は、本人がその利益を追求するために代理人に権限を委譲する、という本人ー代理人関係を政治分析の基礎的な枠組みとして、政治学全般を幅広く解説する標準的な教科書である。代理人は正統な根拠に基づいて選ばれなければならないし、効率的でなければならないし、本人は代理人を監視しなければならない。そして代理人には固有の統治プロセスがあるし、代理人の側から本人の側への影響も大きい。

 本人は多様な利害を持っていて、自らの利益を最大化することを代理人に期待する。代理人は政府・官僚・議会・マスメディア・利益団体・政党など、様々な団体がそれに該当しうるし、代理人自体が本人となって新たな代理人に身を委ねることもある。そして、本書では、本人と代理人の間の緊密で双方向的なやりとりと、本人や代理人の多様な在り方が理論的に絡められていて、政治学の緻密な分析がなされている。

 本書を読んでまず感じたのは、政治とは多様な人々が存在して初めて問題になるということだ。均質な社会では政治はさほど問題にならない。利害の対立や意見の相違、価値観の対立が存在する大きな社会において初めて、人々は代理人に諸問題の解決を委ねるのである。だが、代理人としても多様な存在形式を、その本人からのニーズに合わせて形成していて、社会はどんどん複雑化していく。多様性から来る社会の複雑性をどこまでも緻密に分析していく本書の姿勢はとても心地よかった。