今村が「現代思想」などの雑誌に寄稿した論文を集めたもの。論文集でありながら踏み込んだ意欲的な論考が多いうえ、一般の読者でも十分理解できる平明さを備えている。構造主義やラカン、アルチュセール、ボードリヤール、マルクスについて、鋭い切り口から論じている。確かに「基礎理論」を志向しているが、もちろん雑誌記事であるから限界があり、それよりは今まで良く知らなかった思想家へのガイドブックとして使うのが有効だと思われる。
論文集という本は難しい。その著者のファンならもちろん読むだろうが、そうでもない人が果たして興味を持つかというと難しい。著者は自分独自の見解を出そうとする割りには、一つ一つの論考に割かれる紙幅は狭い。中立的で踏み込んだ教科書的な本でじっくり知識を獲得しようとする人には合わない。むしろ論文集は評論に似ている。短い文章の中で閃く著者の怜悧さを楽しむ、どちらかというと上級者向けの本ではないか。