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菊地章太『エクスタシーの神学』(ちくま新書)

 

  キリスト教神秘主義で、特に神との合一によるエクスタシーに至った女性の列伝。

 エクスタシーとは「外に立つ」という意味で、自分を捨て去って自分の外にある途方もなく大きなものと合一する究極の達成である。それは究極の愛であり、女性の場合は神との結婚という形をとったりもする。

 このエクスタシーは受動的な経験で、愛するのは神の方である。また、神もまた「外に立つ」。人の知ることのできない神秘の世界から神自らが抜け出してこの世に下ってくる。それはイエスという肉体に神が受肉することや、教会のミサにおいてパンと葡萄酒の中に神が姿を現すことに端的に現れている。

 エクスタシーは精神的な抑鬱病の妄想としてジャネによって研究もされている。エクスタシーに至る患者はだいたい似たような経過をたどることが分かっている。

 本書は、フランシスコ・ザビエルやその他聖女として列されている人々のエクスタシーの経験について紹介している本である。キリスト教神秘主義が極まるのが、このように神秘的体験が実際に経験される地平においてであろう。エクスタシーは神の神秘を確証する役目を果たし、昔からその経験は伝えられてきた。現代では精神病の症例としても解釈されているが、神秘主義はそれすらも超えていきそうだ。