物理学的な見方ではなく心理学的な世界の見方について書かれた本。人の気持ちや周りの風物を感じ取る見え方には、単純に物理学的な性質のみが反映されるのではなく、見る人の気持ちや心理状態が反映される。このように「心」によって見る世界は、様々なニュアンスや流動性を持つものである。だが、現代社会においては、人々は周りの世界を乾いたもの、ざらざさしたもの、つめたく澄んだもの、形を持たぬ散乱したもの、見る人の心を跳ね返すものと偏ってとらえるようになってしまっている。
本書は言うまでもなく名著である。記述の端々にまで行き渡った怜悧な洞察がさえわたり、島崎のとてつもない頭の良さが伝わってくる。1960年の段階でこのような本が出されていたことにとても驚く。今読んでも新たな発見のある古典である。現代社会における人々の心の変化もよくとらえていてさすがである。実際現代はそのような乾いた世の中になっており、そこからの脱出は可能なのかどうか検討する余地がある。