社会科学読書ブログ

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南川文里『アファーマティブ・アクション』(中公新書)

 アメリカにおけるアファーマティブ・アクション(AA)の歩みをたどり、社会問題への政策的対応の複雑さを跡付けている。試験でよい成績を修めた学生を合格させるといった一見合理的な制度は、貧困層などの学生を制度的に差別する。そういった制度的差別を防ぐために、合格者の一定割合を黒人や少数民族に割り当てるなどのAAが実施された。だが、逆差別の問題や、AAで掬い上げられた層とそうでない層での階級の固定化、アジア系移民まで差別されるなど問題があり、2023年連邦最高裁でAAは違憲とされた。

 AAの違憲判決が出ていたことを私は本書で知った。だが、DEI(Diversity, Equity, Inclusion)の動きは終わっておらず、入試において試験成績以外の背景的事情を考慮する制度は続いている。日本においても、特にジェンダーギャップ指数に問題があるので、女性に対するAAを考慮することは十分可能だ。それも、逆差別にならないよう、あくまで多様性を推進する形で実施することは可能だと思う。アメリカの苦闘は日本でAAを導入するかどうかを考える上で非常に参考になる。